量子ビット間の相互作用推定問題

量子情報処理を実現するためには、コヒーレンス時間が長く、かつアクセスが容易な良質の量子ビットを生成することはもちろんのこと、量子ビット間の相互作用を高精度に推定することが必要となる。 ユニタリ行列として記述される操作を実験的に実現するためには、個々の量子ビットを精度良く操作する必要があるが、そのためには量子ビット間の相互作用を知っておく必要がある。 我々は(1)NMR量子コンピュータを念頭に置いた量子ビット間の相互作用を推定する手法、並びに(2)ダイアモンド中の格子欠陥と窒素サイトの電子状態を量子ビットとみなし、固体中量子素子として近年精力的に研究が進められてきている NV center を念頭に置いた相互作用推定手法を開発した。

(1)については、適切な座標系を検討することにより、NMR中の核スピンのハミルトニアンはサイトに依存した横磁場が印加された横磁場イジングモデルとして記述することができる。 端の量子ビットしか操作・観測することが可能であるという、極めて制約の強い条件下で、量子ビット間の相互作用を推定することが可能であることを示した[1,2,3,4]。 本研究はMohammad Ali Fasihi氏(近畿大学)、近藤康准教授(近畿大学)、中原幹夫教授(近畿大学)との共同研究である。

NV center と核スピンの相互作用は双極子・双極子相互作用で記述されることから、(2)については、より一般の形の相互作用を検討した。 簡単だが非自明な例として、2つの量子ビットから成る系を検討した。 こちらの手法においても、我々は1つの量子ビットの状態を測定することしかできないという厳しい制約下の中、相互作用パラメータを推定することが原理的に可能であることを示した[4,5,6]。 またこの手法は、量子基礎論において重要であり、かつ近年は物性科学においても注目され始めてきている弱測定の概念と、相互作用推定をつなぐという基礎的意義もある。 本研究は鹿野豊氏(東京工業大学)、各務惣太氏(東京工業大学)、細谷暁夫教授(東京工業大学)との共同研究である。


本項目に関する我々の論文:
[1] Mohammad Ali Fasihi, Shu Tanaka, Mikio Nakahara, and Yasushi Kondo, Journal of the Physical Society of Japan, 80, 044002 (2011).
[2] Mohammad Ali Fasihi, 田中宗, 中原幹夫, 近藤康, 素粒子論研究 (2012).
[3] Mohammad Ali Fasihi, Shu Tanaka, Mikio Nakahara, and Yasushi Kondo, to appear in the proceedings of Kinki University Quantum Computing Series: "Symposium on Quantum Information and Quantum Computing (2011)".
[4] 田中宗, 物性研究 掲載予定
[5] Yutaka Shikano, Sota Kagami, Shu Tanaka, and Akio Hosoya, AIP Conf. Proc. 1363, 177 (2011).
[6] 田中宗, 鹿野豊, 素粒子論研究 (2012).