量子多体系におけるエンタングルメント・エントロピー

近年、量子多体系におけるエンタングルメントの定量的な研究が量子情報、物性・統計物理学の垣根を越えて盛んに行われている。 特に gapless の一次元系に関しては、エンタングルメント・エントロピーと呼ばれる指標から、 対応する共形場理論の情報が読み取れることが知られている。 また Haldane 系のようにギャップのある一次元系については、エンタングルメントエントロピーの飽和値と端状態の関係が、 厳密対角化や Affleck-Lieb-Kennedy-Tasaki(AKLT) モデルを用いた解析を通じて明らかにされている。 本研究では、この端状態による解釈が二次元以上の場合にも成立するか否かを、一般のグラフ上の valence-bond-solid 状態 (VBS 状態)を用いて調べた。 二次元以上の場合には、一次元系の解析において有効である転送行列法などが使えなくなるという技術的な困難があるが、我々はモンテカルロ法と厳密対角化を組み合わせた新しい手法を開発し、その手法を適用して正方格子および蜂の巣格子上の VBS状態でのエンタングルメントエントロピーを計算した。 その結果、二次元以上の場合には一次元と異なり、十分大きな部分系においても 「(エンタングルメントエントロピー)=log(端状態の数)」という関係が成立せず有意な補正が生じることが明らかになった。 正方形から成る ladder 上および、六角形から成る ladder 上におけるVBS状態のエンタングルメントエントロピーの値を厳密に解析した[1]。

また、正方形から成る ladder上および、六角形から成る multi-leg ladder 上における VBS 状態について、より詳細な解析を行った。 この系を対称な二つの部分系に分割した際の縮約密度行列を、別の量子系Xの密度行列とみなす。この量子系Xの「分散関係」の低エネルギー励起構造を見ると、正方形 ladder の場合には S=1/2 反強磁性ハイゼンベルク鎖、三角形 ladder の場合には S=1/2 強磁性ハイゼンベルク鎖の分散関係と類似していることが分かった。 また、この量子系Xのエンタングルメントエントロピー(ネステッド・エンタングルメントエントロピー)を計算すると、正方形から成る ladder 上 VBS 状態からは S=1/2 反強磁性ハイゼンベルク鎖の中心電荷が現れることを見出した[2]。

本研究は桂法称氏(学習院大学)、Jie Lou氏(東大物性研)、川島直輝教授(東大物性研)、Anatol N. Kirillov准教授(京大数理解析研究所)、Vladimir E. Korepin教授(CNYITP, Stony Brook)との共同研究である。


本項目に関する我々の論文:
[1] Hosho Katsura, Naoki Kawashima, Anatol N. Kirillov, Vladimir E. Korepin and Shu Tanaka, Journal of Physics A 43, 255303 (2010). [IOP collections, Highlights of 2010]
[2] Jie Lou, Shu Tanaka, Hosho Katsura, and Naoki Kawashima, Physical Review B, 84, 245128 (2011).