フラストレート系における動的特性

相転移点より高い温度に置いた強磁性体に、非常に強い磁場をかけて強制的にスピンをそろえたとしよう。 急に磁場を止めたときに、その強磁性体の磁化は単調に指数関数的にゼロに向かって緩和していく。 このように、物理量は単調に緩和していくのが通常である。 ところが、スピングラスや半導体界面に形成された2次元電子系において、温度を急激に変化させたときに、磁化や電気伝導度が非単調に緩和することが知られている[A,B]。 ランダム相互作用のあるイジングスピングラスモデルをモンテカルロシミュレーションで調べることにより、スピングラス物質の実験で観測される非単調な緩和現象を再現したという最近の報告もある[C]。 我々は、非単調な緩和現象が起こる最も重要な効果はフラストレーション効果であると考え、 フラストレートした飾りボンド系を考察した。 ここで考察した系は、スピンの相関関数が温度に対して非単調、 つまり温度を下げて行くに従い、相関関数が常磁性的→反強磁性的→常磁性的→強磁性的に振る舞う系である。 この系は非常にゆっくり温度を下げていけば、相関関数が非単調に振る舞うのは自明である。 しかし温度を急激に下げた場合に、相関関数がどのように振る舞うかは非自明である。 この系をある温度T1における平衡状態に用意し、急激に温度をT2へと下げた場合に相関関数はどのように振る舞うかを、確率的時間発展方程式を解析し、確率的時間発展方程式を表す行列の固有値、固有ベクトルの観点から求めた。 その結果、相関関数は温度を急激に下げた場合においても非単調に振る舞うことが分かった[1,2]。 これは温度を急激に下げているにもかかわらず、有効温度は徐々に下がっていることを示している。

また同様の解析を、時間変化する横磁場を印加した、温度ゼロの場合について検討した。 その結果、断熱的に横磁場を変化させた際にスピン間の相関関数は、温度の場合と同様に、横磁場の値に対して非単調に振る舞うことが分かった。 一方、時間発展については温度を急激に下げた場合と、横磁場を有限の速度で変化させた場合とで大きく異なることを明らかにした[2,3,4,5]。

本研究は平野真樹氏(東京大学)、宮下精二教授(東京大学)との共同研究である。


References:
[A] P. E. Jonsson and H. Takayama, J. Phys. Soc. Jpn. 74, 1131 (2005).
[B] J. Jaroszynski and D. Popovic, Phys. Rev. Lett. 99, 046405 (2007).
[C] H. Takayama and K. Hukushima, J. Phys. Soc. Jpn. 76 013702 (2007).

本項目に関する我々の論文:
[1] Seiji Miyashita, Shu Tanaka and Masaki Hirano, J. Phys. Soc. Jpn. 76, 083001 (2007).
[2] Shu Tanaka and Seiji Miyashita, Physical Review E, 81, 051138 (2010).
[3] Seiji Miyashita, Shu Tanaka, Hans de Raedt, and Bernard Barbara, Journal of Physics: Conference Series 143, 012005 (2009).
[4] Shu Tanaka, Masaki Hirano, and Seiji Miyashita, Physica E 43, 766 (2011).
[5] Shu Tanaka and Ryo Tamura, to appear in the proceedings of Kinki University Quantum Computing Series: "Symposium on Interface between Quantum Information and Statistical Physics".