容易軸異方性のある三角格子反強磁性体における相転移

フラストレーションのある磁性体は、統計物理学的観点からも、あるいは物性科学的観点からも非常に興味深い物質であり、 これまで非常に多くの研究が理論・実験両面からなされてきた[1]。 近年、中辻知研究室(東京大学物性研究所)において、三角格子反強磁性体の新物質 Rb4Mn(MoO4)3 が合成された(上図左及び中央)。この物質は磁性を担うイオンがMn2+であり、S=5/2のスピンが三角格子のネットワークを形成している物質である。 磁化測定の結果から、この物質は小さい容易軸異方性の存在が示唆される。 そこで我々は、容易軸異方性を持つ三角格子反強磁性体のモンテカルロシミュレーションを行い、 磁場の印加方向が容易軸に平行な場合、垂直な場合それぞれについて相図を得た(上図右)。 ここで我々が導入したモデルは、最近接サイトに働く反強磁性的相互作用および、1イオン異方性項の2つのパラメータのみから構成された非常にシンプルなモデルである。 比熱測定により得られている、ゼロ磁場中での2つの相転移温度の情報を元に、我々は容易軸異方性の強さを決定した。 その値を用いて磁場中における帯磁率ならびに比熱の振る舞いを検討したところ、定性的だけではなく、 定量的にも高い精度で実験の値と一致することがわかった[2]。

本研究は東京大学物性研究所の複数の実験系研究室(中辻知研究室・榊原俊郎研究室・徳永将史研究室)並びに、川島直輝教授(東京大学物性研究所)、前野悦輝研究室(京都大学)、Collin Broholm group(The Johns Hopkins University)、Julia Chan group(Louisiana State University) との共同研究である。


本項目に関する我々の論文:
[1] 田中宗, 轟木義一, 熱測定 [解説記事] 36, 91 (2009).
[2] Rieko Ishii, Shu Tanaka, Keisuke Onuma, Yusuke Nambu, Masashi Tokunaga, Toshiro Sakakibara, Naoki Kawashima, Yoshiteru Maeno, Collin Broholm, Dixie P. Gartreaux, Julia Y. Chan and Satoru Nakatsuji, Europhysics Letters 94, 17001 (2011).