複数の競合する相互作用がある2次元ハイゼンベルクモデルにおける2次相転移

ポイント

  • 離散的対称性の破れを伴う1次転移を引き起こす2次元フラストレーション系を、1軸方向に歪ませた理論模型の相転移の様相について、モンテカルロシミュレーションを用いて検討しました。
  • 秩序変数空間がSO(3)xZ2となる場合について、2次相転移が起こっていることを確認しました。
  • この2次相転移は2次元イジング模型のユニヴァーサリティークラスに属することを確認しました。また、Z2渦の解離が2次転移点で起こっていることを明らかにしました。

概要

幾何学的フラストレーションのある磁性体は、その競合効果により、特徴的な磁気構造や相転移、新しいタイプの動的現象、更には複合自由度の競合と協調が織りなす新奇物性が現れる魅力的な物質群であり、理論・実験両面から精力的に研究がなされています。 幾何学的フラストレーションのある磁性体では、スピン間の相互作用ネットワークとスピン異方性の両者の組み合わせに応じて様々な対称性が現れます。物質に内在する対称性と相転移の様相は密接に関係しているため、フラストレーションのある磁性体では様々なタイプの相転移の様相が発現することが期待されます[A-F]。

複数の競合する相互作用がある2次元三角格子ハイゼンベルク模型において、秩序変数空間がSO(3)xC3で記述できる場合に、C3対称性の破れを伴う1次相転移が現れることが見出されています[A,D]。 また磁場を印加した場合には、スキルミオン格子が形成されることも調べられています[E]。 我々はこの模型を1軸方向に歪ませた理論模型の相転移の様相を検討しました。 歪みの効果により、秩序変数空間がSO(3)xZ2となる場合が存在します。 この理論模型の基底状態は、らせん構造を取り、更に、2回対称性の破れた磁気構造となっています。 この理論模型では、有限温度で自発的にZ2対称性の破れを伴う2次相転移(連続相転移)が生じることが分かりました。 有限サイズスケーリングの結果、この2次相転移は2次元イジング模型のユニヴァーサリティークラスに属することが分かりました。

2次元連続スピン系なので、連続対称性であるSO(3)が有限温度で破れることは禁止されています(Mermin-Wagnerの定理[G])。 しかしながら、SO(3)対称性における点欠陥であるZ2の解離は有限温度で起こることが知られており、フラストレーション系の普遍的な性質の一つとされています[H]。 Z2渦の数密度の温度依存性を計算したところ、2次転移点(臨界点)でZ2の解離が起こっていることを明らかにしました。 この理論模型は、Z2渦の解離が2次転移点で起こることを示した初めての例です。

以上の研究成果に関する論文がPhysical Review B 誌に掲載されました[1]。本研究は田村亮博士(物質・材料研究機構)[link]、川島直輝教授(東京大学物性研究所)[link] との共同研究です。田村亮博士による解説はこちらのサイトをごらんください。

なお、この論文は、Physical Review B 誌の Kaleidoscope images に採用されました。


本項目に関する我々の論文:
[1] Ryo Tamura, Shu Tanaka, and Naoki Kawashima, Phys. Rev. B 87, 214401 (2013) [link][Kaleidoscope images]

References:
[A] R. Tamura and N. Kawashima, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 103002 (2008).
[B] E. M. Stoudenmire, S. Trebst, and L. Balents, Phys. Rev. B 79, 214436 (2009).
[C] S. Okumura, H. Kawamura, T. Okubo, and Y. Motome, J. Phys. Soc. Jpn. 79, 114705 (2010).
[D] R. Tamura and N. Kawashima, J. Phys. Soc. Jpn. 80, 074008 (2011).
[E] Tsuyoshi Okubo, Sungki Chung, and Hikaru Kawamura, Physical Review Letters, 108, 012706 (2012).
[F] Ryo Tamura and Shu Tanaka, Physical Review E, 88, 052138 (2013) [link]
[G] N. D. Mermin and H. Wagner, Physical Review Letters, 17, 1133 (1966).
[H] Hikaru Kawamura and Seiji Miyashita, Journal of the Physical Society of Japan, 53, 9 (1984); ibid. 53, 4138 (1984).